IDESコラム vol. 31「宇宙服の人間に囲まれて」

感染症エクスプレス@厚労省 2018年12月7日

IDES養成プログラム4期生:飯田 康

 IDES4期生の飯田です。
 
 2018年11月27日に横浜検疫所の感染症対策総合訓練に検疫医師役として参加しました。訓練の目的は、国内に常在しない感染症が流行している中、病原体が国内に侵入した時に対処できるように関係機関との円滑な対策・連携について確認することです。今回は、神奈川県警、横浜市保健所、横浜海上保安部、東京入国管理局、横浜税関、動物検疫所、横浜市立市民病院などとの共同訓練でした。
 
 具体的には、中東の中東呼吸器症候群(MERS)の発生国からアラブ人の兄弟が航空機でX国に入国後、クルーズツアーに参加し横浜港に到着するとのシナリオでした。去る2018年9月にも、実際にお隣の韓国でMERSの輸入例の報告があったばかりです。MERSはヒトコブラクダとの濃厚接触により発熱、呼吸困難など出現し、肺炎を起こします。死亡率は38.7%※で現段階では特別な治療法はない病気なのです。今回の訓練のポイントのひとつは、日本語を母国語としない船医や患者さんを想定し、英語での患者対応をしたということです。現在の観光客などの急増を考えると、実践的であると思います。
 
 私は検疫官として、船医から患者情報を聴取し、患者さんにこまめに話しかけ不安を和らげながら、現場本部を介して関係機関と連携をとり、保健所医師に申し送り、横浜市民病院への搬送へつなげるよう努めました。周囲に病原体を飛散させないように手指消毒や個人用防護具(PPE)の装着に気を使いました。また、患者さんはDIFトランスバックという、ビニールで中を陰圧にした病原体の飛散を抑えるバッグの中に収容されてしまいます。宇宙服の様な服の検疫官に囲まれて、ただでさえ体調が悪いので患者さんは孤独で不安になると思います。このようなことはマニュアルには当然書いてありません。ですので、決して得意ではない英語のアドリブで「Are you OK?」など声かけを多くするようによう意識しました。
 
 それでも、本番で消毒薬がすぐに見当たらなかったり、個人用防護具(PPE)の正確な着脱の確認に必要な姿見が無かったり、準備をしていても想定外のことは起きてしまいました。
 
 訓練の目的は、いざという時のために関係機関との円滑な対策・連携について確認することです。ですが、マニュアルに書いていないこともあります。感染した患者さんに寄り添う目線も、医師である検疫官に求められることかもしれないと思った訓練となりました。
 
※文献:WHO MERS-CoV http://www.who.int/emergencies/mers-cov/en/ (2018/11/28現在)
(編集:成瀨浩史)

●当コラムの見解は執筆者の個人的な意見であり、厚生労働省の見解を示すものではありません。
●IDES(Infectious Disease Emergency Specialist)は、厚生労働省で3年前の平成27年度からはじまったプログラムの中で養成される「感染症危機管理専門家」のことをいいます。
 
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